PARTNER PRODUCER パートナー / プロデューサー
台湾に生まれ、日本・イギリスで建築を学んだのちに、日本で建築家/プロダクトデザイナーとして活躍するYang Hen Chen氏。多様な文化の中で築いたキャリアをもとに、日本の伝統素材・技術等を生したデザインで、空間からプロダクトまで幅広いプロジェクトを手掛けているご本人に、デザイナーとしてこだわり、今後のチャレンジについて伺いました。
「長く大切に使い続けられるものをデザインする」 -それがデザイナーとしての責任
私は台湾出身で、日本で大学卒業後に株式会社高松伸建築設計事務所に入社し、そこで建築家としてのキャリアをスタートさせました。
入社してから退社するまでの3年間、毎朝、高松氏が仕事で使う色鉛筆を手で削らされ、台湾人の私はなぜそのようなことを自分がしなくてはならないかが分からず不満さえ感じていました。ある時、高松氏にその理由を問うと、「すべての美しいデザインはこの色鉛筆から生まれるのだから大切に扱わなくてはならない」という答えが返ってきました。その経験から、どんな些細ことでもモノ・コトを大切に扱う日本人の丁寧さ・繊細さが美しいデザインを生み出すのだと感じました。
その後、さらにデザインを学ぶべく渡英し、ノーマンフォスター氏の建築事務所に入りました。世界でも有数の建築事務所に入社できたのは、日本で身に着けた繊細さや、細かなところにも配慮する仕事の姿勢が認められたからだと感じています。この事務所には世界各国から力溢れる建築家・デザイナーが集まってきており、多国籍・多文化の中で新しいものが生み出されるパワーを感じました。また個人を尊重してくれる自由な風潮があったので何にでもチャレンジする精神を身につけることができました。
11年間にも及ぶイギリスでの生活を経て、縁あってまた日本に戻り、独立して今に至っていますが、日本で身に付けた「丁寧さ・繊細さ」とイギリス時代に培った 「固定概念に捉われず自由な発想で思い切った感性」が仕事のベースになっています。
私は、これまでのキャリアから得た経験値をもとに、単に美しいものを作るのではなく、長く大切に使い続けられるモノをデザインすることを常に意識しています。現代の世の中には無駄なものが溢れています。モノが作られれば作られるほど一つのものに対する価値が下がっていってしまうので、不必要にモノを作られることを避けるためにも長く大切に一つのモノを使っていただくことが重要だと思います。モノを生み出した後のことも考える、それがデザイナーとしての責任だと考えています。
複数の技術を組み合わせて新しい価値を生み出していきたい
今後は、デザイナーとして異なる2社以上の企業の強みを引き出しうまくミックスさせることで新しい価値を生み出すことにどんどんチャレンジしていきたいと思っています。
例えば、レクサス小倉のオーナー専用ラウンジに飾られているアートワークを制作したときには、北九州地方の伝統工芸である小倉織を製造している(株)小倉縞縞と、同じく北九州の会社で、サイン・銘板のデザイン・製作などを請け負っている(株)鎚絵と一緒に仕事をしました。
小倉織の生地は、密度が非常に高く細かなグラデーションを表現することが可能で浮き上がるようなストライプ柄が特徴です。
また鎚絵は、クルーズトレイン「ななつ星in九州」の車両の先端部分を製造するなど高い製鉄技術をもっていてとても薄い鉄板を作ることができます。
レクサス小倉のアートワークでは、小倉織の生地を鎚絵が作った薄い鉄板に張り付けて作ったのですが、2社がコラボレーションすることで、平面のアートワークでありながらも、柔らかな織物が浮かび上がっているように見せることに成功しました。
北九州空港のラウンジに飾られているアートワークも、同じく小倉織と鉄板の組み合わせで制作しました。開運の意味を持つ「扇面」と小倉織の特徴的な色合いでもある「ジャパンブルー」をテーマにしたこのアートワークは、小倉織を張り付けた鉄板を、立体的に組み合わせているため鉄板をいかに薄くするかがポイントになりました。この点はかなり苦労をしましたが、最終的には職人の技術によって精度の高いものができ、好評をいただくことができました。
今後は、生地だけに関わらず陶器・鉄・ガラスなどいろいろな素材を扱ってみたいですし、小物からアートワーク、インスタレーションなど大きな商材の分野においても、異なる複数の会社の素材・技術を掛け合わせて新しい付加価値を生み出すことにチャレンジしたいと考えています。
受け手のためだけのストーリーでモノに特別感を演出
TSUKURIBAのサービスで扱う商材のように、一から作るモノは、モノの受け手の使用用途や目的を明確にして、その人のためだけのストーリーで作るので特別感を演出することができます。
例えば、以前、「ななつ星in九州」にご乗車されるお客様向けのアメニティ入れを制作しましたが、その時にはお客様に列車の旅を満喫していただき、持ち帰っても思い出になり、ずっと使えるものとして、車両の色と同じロイヤルワインレッドの小倉織の生地をオリジナルで制作し、紐部分は日本の伝統的な結び方「男結び」「女結び」を取り入れました。その結び方には日本古来の意味があり、生地部分の縫製の仕方を変えるだけでなく、結び目部分を変えることで、異なる形を作り上げ、特別感を演出しました。モノの受け手がどのような方たちか、どのようにそのモノを使ってもらいたいかと考えてデザインをした事例になります。
このように、多くの無駄なモノで溢れている社会の中で、モノの受け手のことを考えながら、必要な、美しいモノだけを作る社会になっていってほしい。共にあるモノを大切にする、そんな未来を創りたいと考えています。
台湾生まれ、イギリス国籍。日本の大学で建築を学んだ後、株式会社高松伸建築設計事務所に入社。その後、渡英しFoster + Partnersで11年間キャリアを積んだのちに、日本に戻り独立。建築家/プロダクトデザイナーとして、日本の伝統素材・技術を生かしたデザインで、空間からプロダクトまで幅広いプロジェクト手掛けている。
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